背景


 東南アジアの大都市では、人口集中と不適切な屎尿処理が主原因とみられる水環境、衛生環境の悪化が深刻化しています。 特に、超過密地区であるスラムにおいては、状況は深刻とみられますが、スラム内部での水利用や衛生環境の実態については、よくわかっていません。 そこで本研究では、現地調査によってスラム内の水使用・トイレ・屎尿処理に関する実態を把握し、現地の実態に即したシステムとして、コンポスト型トイレによる屎尿オンサイト処理システムを提案しました。

スラムの現地調査

 フィリピン国マニラ首都圏およびインドネシア国バンドン市においてスラムの現地調査を行いました。 調査の内容は、主に、水利用と水処理に関する聞き取りと実測、各家庭から排出される汚濁負荷量と周辺河川の汚濁負荷量との比較(実測)、などです。 また、最終的に社会システムの設計をすることを目標にしたので、住民の収入や生活習慣、コミュニティの仕組みなど、社会状況についても幅広く調査を行いました。
 調査の結果、まずこれらの場所では、排水処理施設を伴わない水洗式トイレが普及しており、大量の屎尿がほとんど垂れ流しとなっていることが見えてきました。 当然、周辺河川は著しく汚染されています。 また、水使用量を調査した結果、水洗式トイレの設置によって、低所得者層の水使用量が2倍近く増加することがわかりました。 こうした状況は、水源の汚染と相まって水資源確保の問題を一層深刻化させているものと考えられます。
 なお、統計を見ると、他の東南アジア諸国においてもSeptic Tank以外に有効な処理設備がないまま水洗式トイレが普及しており、類似の問題の構造が広く見られるものと推察されます。 東南アジア諸国の行政、経済の現状もあわせて考えると、根本的な解決策として、下水道やSeptic Tankに頼らず、新しいシステムによって屎尿の垂れ流しを食い止める必要があると考えられます。

コンポスト型トイレを用いた屎尿オンサイト処理システム

 以上の実態を踏まえ、本研究では、屎尿を一切水系に放出しない、コンポスト型トイレを用いた屎尿オンサイト処理システムを提案しました。 そして、システムのキーとなるコンポスト型トイレのうち、オガクズをマトリクスとするタイプを実験室および学生の自宅に置いて実験を行い、現地化に向けた課題を整理しました。
 貧困者が多く、超過密地区であるスラムへの適用に際しては、装置の小型化、ランニングコストの削減、本体価格の大幅低下、などが焦点となります。 コンポストトイレを用いた実験の結果、オガクズ槽の加温は、処理効率の向上と水分管理の両面で有効であったが、それによって発生する電気代は、バンドンの場合で、現地住民の代表的な収入の1.3〜9.8%に相当し、現地住民にとって大きな負担になると考えられました。 水分のコントロールが一つの重要なポイントと考えられることから、尿を別途処理することによってオガクズ槽への水分投入量そのものを減らし、電気代を上げずにオガクズトイレの小型化を実現する方法を次に検討しました。 結論として、大便についてはヒーター無しの条件でも、既製品の約半分のサイズでトイレが設計できると考えられました。 一方、尿については必要に応じて簡易の蒸発濃縮処理を行うものとして、その基礎実験を行いました。 実験の結果、1人1日分の尿を蒸発させるために必要な電気代は、先の実験で計測されたオガクズトイレの電気代の2〜6割程度と考えられました。 以上の実験結果をもとに、現地適用に向けたトイレユニットを、現地の制約条件(サイズ、価格など)を満たす形で具体化するための検討を行いました。

コンポスト輸送システムの検討

 本研究では、最終的に屎尿(のコンポスト)を、農地に還元することを考えています。 この場合、栄養塩および有機物の循環の輪全体を視野に入れた、社会システム全体としての設計が必要です。 本研究では、現地調査によってバンドン市のスラムをケーススタディのサイトとし、コンポスト型トイレを用いた新しいシステムを導入した場合について主にコストの試算を行い、社会システム上の課題を整理しました。 実際の適用においては、コンポストおよび尿の収集輸送システムが成立しうるか否かが一つの要となります。 これについては、既存のゴミ収集のシステムを参考に、コンポストと尿の回収輸送システムのイメージを描き、具体的な数値を入れて検討した結果、現在のゴミ収集システムとさほど変わらない規模で、尿液肥とコンポストの収集輸送が可能であると考えられました。 この収集輸送システムの費用を試算すると、各家庭が負担する部分は、代表的な現地住民の収入に対し、1〜2%程度と見積もられました。 これは、現状のゴミ収集費用(収入の0.1〜0.7%)よりは高いが、水代(収入の1〜6%)や電気代(収入の4〜7%)よりは明らかに低く、概ね妥当な金額と考えられました。 一方、バンドン市が公共事業として負担することを想定した部分についても、将来的に尿の肥料としての価値が認められれば、それが通常の肥料よりかなり安い価格(1/20程度)であったとしても、事業として成立する可能性が示唆されました。